【わたしの原子力秘史シリーズ 続編その8】ジェイパーク(J-PARC)の命名

【わたしの原子力秘史シリーズ 続編その8】
90年代に、旧原研職場において、大強度陽子加速器施設の名称公募に【ジェイパーク】を提案し、採用された経緯を前回記しました。
このジェイパークは、現在、J-PARC=Japan Proton Accelerator Research Complex(日本陽子加速器研究複合施設)という英語名称ですが、私が提案した時のものは、Japan Proton Accelerator Reactor Complex(日本陽子原子炉複合施設)というものでした。私の提案したReactorがResearchに置き換わって採用されていました。フェイスブックにもグループが作ってあるのでよかったら覗いてみてください。

J-Parc :: Japan Proton Accelerator Reactor Complex
https://www.facebook.com/groups/121405585528/




名称に、原子炉をつけるべきかどうかは、かなり微妙な問題です。
というのも、この施設は、使用済み核燃料処理を目標としたオメガ計画(*)そのものであり、加速器駆動型未臨界原子炉(ADR)というのが正式名称で、現在ビルゲイツなどが主導している進行遅延波型トリウム原子炉などの、マイナーアクチニド元素(核廃棄物)を燃焼させること目的で設計されたものです。ラフなイメージでは、加速器からの陽子ビームを原子炉の中の燃料集合体に照射し、使用済み核燃料、核廃棄物を強制的に燃焼させる、というものです。
これが、いつのまにか原子力業界界隈ではタブー名になっていることは、初回の浜田参議院議員のブログで紹介したとおりです。

(*)2011年05月08日 21時21分07秒
放射性物質の安全処理の切り札「オメガ計画」の行方
http://ameblo.jp/hamada-kazuyuki/entry-10885702609.html



このあたりが特殊な事情になっているのは、実は、このジェイパークプロジェクトの成り立ちによります。
ジェイパークは現在、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と現機構(JAEA)の共同運用となっていますが、これは、KEKが以前からもっていた大型ハドロン計画というのものと、原子力側の旧原研および旧動燃、電中研などがもっていた加速器駆動型未臨界原子炉(ADR)計画を合体させたものです。
じつは、この二つの計画を合体させるというのは、最初から目論まれていたわけではなく、当時の科学界もまきこんだ政治的産物になっています。
KEK側は、欧米の大規模加速器計画に遅れをとるまいと、東大原子核研究所などが次期計画(ニューマトロン計画、大型ハドロン計画)を打ち上げていました。また、タイプは若干違うものの、理化学研究所(仁科記念施設)でも大型の加速器建設計画が持ち上がっており、原子力系のものも合わせると、日本国内で3つから4つの加速器計画が別個にたち上げられる状況になっていました。




'80-'90年代は、科学研究がどんどん大型化する時期でありましたが、その時に起こったのが、米国の超伝導超大型加速器(SSC)計画の破棄ニュースでした。
同時に、SSC計画と並行して議論されていたのが、国際熱核融合(ITER)計画ですが、ITERとSSCとどちらをとるか、という議論が日本では加熱していました。米議会によるSSC計画破棄は、従来、原子力や国防の傘の下でおこなわれていた科学研究活動に予算評価面で大きなインパクトとメッセージを与えました。ご存知のように、米国の国家予算はその大部分が国防省(DOD)や国土安全省(DHS)などの大型予算で仕切られますが、その間隙を縫うように、エネルギー省(DOE)や科学財団(NSF)の予算が組まれます。大学や研究施設、民間企業に大型資金を出しているのは、国防省です。ですから、SSC計画破棄のメッセージとは、要するに、科学者に無制限におもちゃ遊びのカネを与えてはならん、というものでした。
その結果、日本も原子力の傘の下でやれるだけやれてきた基礎科学研究も、予算面での合理化を迫られました。その結果出来たのが、KEKとJAEAによるジェイパーク計画の合同運営という形態であったわけです。
KEKとJAEAは合併こそしていませんが、このジェイパーク計画は、KEK(科学研究)側にとっては、SSC計画が破棄されて以来、今日に至るまで主力事業であり、筑波サイトにある加速器施設とともに、日本を代表する科学研究の目玉となっています。
一方、JEAE原子力業界側にとってのジェイパーク計画は、いまのところ大半が科学研究で、本来目的とするオメガ計画や加速器駆動型未臨界原子炉などの原子力業務には未だわずかしか使われていません。




JAEAサイドの経営としては、軒を貸して母屋を取られた状態、とおもっているかどうかは定かではありませんが、なにせこのオメガ計画がでてくるまえの旧原研はほとんど潰れる直前でした。なので、新規事業が他人のものであっても、土地と資材、カネ、人材をつかってくれて、予算報告上の都合がつけばなんでもやります状態だったのですから、どうぞどうぞ母屋ももっていってください、というところでしょう。
このジェイパークの加速器駆動型未臨界原子炉については、KEKとJAEAの合同運営を危ぶむ研究者グループによって討論が企画され、そのなかに拙著が採用されています。物理研究者としての私は、核反応の特殊な形態、核破砕反応というものをコンピュータシミュレーションによって模擬した結果を提示したのですが、これは、フランスに滞在している最中に行われたもので、これがまた別のやっかいな問題を含んでいました。これについては、次回にまわします。

10.8 ルビアトロンがやってくる(抜粋)
https://ir.soken.ac.jp/index.php?active_action=repository_view_main_item_detail&page_id=29&block_id=155&item_id=2906&item_no=1&fbclid=IwAR2DxJWVfJdk9ClP88VZxO4FzxUuO1vpqof_xhrsbq44hHpq8woFBDnLNZg


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